大学向けプリント管理ツール比較
大学では今まで多くのPC教室を用意し、学生の年間印刷可能上限を定めて管理してきました。このプリント管理ツールは大きく分けてプリンタメーカーが出している自社プリンタ管理用のツールと、ソフトメーカーが出しているマルチベンダ対応のツールに大別されます。
価格もメーカーが出しているフリーのツールから、課金装置などを装着する高価なシステムまであり、大学の予算と実現したい機能に応じて選択することになります。
以下に主要製品の機能比較表を提示しておきます。
課題1:プリンタメーカーを換えるごとにツールを刷新するのは費用がかかる
「予算を確保して5年に一度、プリンタを刷新するときに管理ツールも含めてすべて入札し、システムを導入する。」という裕福な大学も多く存在します。しかしながら、以下の問題も発生します。
- プリント管理ツールの代金、インストール設定費用もばかにならない。
- 新規プリンタを途中で追加できない。異なるメーカーのプリンタを入れてしまうと管理できなくなる。
課題2:持込デバイスへの対応を考えるとOS対応が大変になる
現在ではWindows, Mac, iOS, Android, Chromebook, Linux など、多くのOSが混在し、情報センターはOSバージョンアップに追従するだけでも、大変な管理労力を強いられます。OSだけでなく、それに伴うプリンタドライバの更新など、大変な作業が発生します。コロナ禍により持込デバイス対応(BYOD)を実施すると、さらにその工数は増大します。間違ったプリント管理ツールを導入すると、大変な工数増になってしまいます。
COSY社はなぜPaperCutを採用したのか?
COSY社は2007年に自社製品としてCOSY Print Job Monitor を市場に投入開始しました。しかし、2009年にPaperCut社の社長 Chris Dance と技術トップのMatt Doran と会い、衝撃を受けました。彼らの卓越した頭脳の前に自社製品を展開する意味が崩れ去りました。「自社製品は廃止する。今後はPaperCutで行く」そう決めて日本への帰路に着きました。理由はシンプルです。PaperCutが今までのプリンタ開発経験から照らし合わせてもベストの製品だからです。(2022年現在でもPaperCutを超えるどころか足元にも及ばないソフトしか存在しません、特に操作性)利益率が良いからと自社ソフトを販売するのは顧客にとって悪だと考えました。
翌日からPaperCutの日本語化、日本の独自プリンタ言語への対応のためのコマンド解析を開始しました。
以下に経緯を書いておきます。時間に余裕のある方はお読みください。
COSY創業時の技術担当の森川はシリコンバレーでプリンタコントローラの開発を行い、Adobe社、Microsoft社、EFI社と直接アメリカで技術打ち合わせを何十回も行った経験があります。Microsoft社では専用オフィスを用意してもらい、長期滞在して開発対応も行ってきました。Adobe社にもPostScript Certificationを取得するため、頻繁に出入りしておりました。HP社のPCL言語はGenoaテストツールによるコンパチテストなど、現在でもCOSY社でメーカー支援の一環として行っています。つまり、プリンタ技術を知り尽くしているのがCOSYです。
日本のプリンタはガラパゴス化している
日本市場では20世紀後半、日本語を高速で処理して印刷するため、主要プリンタメーカー各社は独自のプリンタ言語を開発していました。プリンタ技術は日本が先行していたため、自社で作らざるを得なかったのが実情です。
そのため、Windows OSが市場を席捲しても、海外でHPやAdobeがデファクトスタンダードになっても、性能重視のため、メーカー独自のプリンタ言語が利用されてきました。
一方で後発メーカーはデファクトスタンダードであるPCL言語をアメリカから技術移転する方向に進みました。今ではPCL言語の2バイト文字コード対応が進んだのと、PCの性能が劇的に向上したため、独自言語にこだわる理由はほとんどなくなってきています。
日本のプリンタがガラパゴス化しているため、海外のプリント管理ツールはほとんどまともに動作しませんでした。日本のプリント管理ツールメーカーはこのガラパゴス化を知っているため、独自ドライバを開発してPDFイメージを作成してそれをメーカーのドライバ経由で印刷させるという方法を取りました。画質は劣化します。
PaperCutはあくまでメーカー独自ドライバで印刷できるようにしています。
なぜ、大学向けプリント管理ツールとしてはPaperCutがベストなのか?
理由は簡単です。情報センターの管理業務の手間が減るからです。
情報センターでは以下のようなこまごまとした業務があります。
- 印刷失敗時の印刷ポイントの返金作業
- 追加ポイントの販売、また、そのポイントの追加登録作業
- 紙詰まりなどプリンタの不具合対応
- 用紙切れ時の紙の運搬とトレイへのセット
- 学生、教員からの質問対応
- ドライバソフトのアップデート
- OSアップデートの検証と実施
- 学生持込パソコンの不具合対応、ドライバ環境設定支援
- 新入生のためのLDAPのアップデート、ICカード発行、登録作業
- 卒業生と留年生、大学院進学者の各種登録変更、印刷ポイント修正、削除
- 授業時間は無料印刷、それ以外はポイント消費など、授業スケジュールが変わるたびの設定変更
- その他もろもろ
良くないツールを導入すると現場の管理者が膨大な時間を消費することになります。良いツールを導入した場合と悪いツールを導入した場合の作業時間の差はばかになりません。
プリンタを入れ替えるたびに新しいツールにしてしまうと、操作性が異なるため、場合によっては仕事のやり方まで変えなければならないことになります。慣れ親しんだツールを使う方が職員の負担も小さいのは言うまでのありません。良いツールを長く使って、浮いた時間を他の学生サービスに使うべきです。
なぜ、PaperCutを一度導入した大学が引き続きPaperCutを使っているのか?
これも理由は簡単です。シンプルに使いやすいからです。業務が効率化できるからです。
PaperCutは新しいプリンタに対応するため、毎年バージョンアップを行っています。保守費をお支払いいただいている限り常に最新版が利用可能です。プリンタを刷新したからプリント管理ツールも新規導入しなおしというナンセンスな行動をする必要がありません。
PaperCut Plus, MF はすでに150校以上の大学で活用されています。5年に一度のシステム入れ替え時に他社ツールに入れ替えたお客様はわずか5%程度です。95%の大学がそのまま使い続けています。すでに13年使っている大学も何校もあります。
それではなぜこの5%の大学がPaperCutをやめたのでしょう。
- 大学の統廃合や閉校による
- プリンタとセットで激安価格を提示されたため、入札にて負けた
- PC教室を撤去した。プリンタは生協の有料プリントに移管した。
PaperCutに不満を抱いて変更したという話は現在のところ、聞いておりません。(届いていないだけかもしれません)
2に関しては、安く導入できるのは良いことなのですが、職員の工数が増えて時給を積算すると必ずしも安くならないという問題があります。そもそも手間がかかり、学生サービスの時間が減ってしまうという事になれば得策とは言えません。5年後にPaperCutに戻された大学もあります。
3に関しては、大学職員の工数減、大学経費削減という観点から見ると、良案のように思えます。しかし、大学での教育を考えると、文書を作成し、それをアウトプットし、さらに検討を重ねる。というのは重要な作業サイクルです。知識を深めるにはこのようなサイクルが不可欠です。昔の学生は大量の文章を手書きしていましたが、現代ではそれをプリンタが代行しています。もちろん画面で検討すれば良いという考えもありますが、複数のページや書物を並行して読みながら検討して行くというのはかなり困難です。学生が1枚10円の負担を敬遠してこのサイクルを行わないとなると、日本の大学生の知力は間違いなく海外大学に比べて見劣りするようになると考えられます。
学生の印刷を制限するというのがあたかもプリント管理ツールの役目のように見られていますが、プリントしているのは学生だけではありません、教職員が印刷する枚数も膨大です。授業の資料として印刷される枚数もかなりのものです。これらを一元的に見える化し、ルール決めを行い、予算管理をしながらトータルのアウトプットを管理して行くという事は非常に重要です。生協の有料プリントにすれば良いという話でもありません。
まとめ
- 大学向けプリント管理ツールでPaperCutより使い勝手の良いツールは無いと考えられる(COSY私見)
- 管理ツールの価格と職員工数時給とのバランスが大切
- プリント管理ツールは学生のプリント制限用だけではない。トータルの予算マネジメントが重要